【銘柄分析】ヤマシンフィルタの特損にみるマスクビジネスの難しさ

ヤマシンフィルタが、業績予想の下方修正発表を出しました。その発表を受けて株価は下落してしまっています。さらに株価はかつて、上昇をスタートした位置にまで落ちてしまっており株価も振出しに戻ってしまった格好です。

どういった背景がこの結果を生んでしまったのでしょうか?

ヤマシンフィルタとは

ヤマシンフィルタとは、重機用のフィルター製作を担う企業で、この分野では世界トップのシェアを誇ります。

建設用重機には複雑な機構かつ、土ぼこりが溜まりやすいため各機構回路に何重ものフィルターを設けることで重機の寿命を守っています。このフィルターづくりをヤマシンは担っているのですね。その歴史は結構古く1956年まで遡ることが出来ます。

新しく成長エンジンをヘルスケア領域に狙いを定めた矢先の特損計上となってしまいました。何が今回原因だったのでしょうか。

ヤマシンフィルタHPより

そもそも、今回の特損はどんな内容か

”ヘルスケア事業における、市場環境の大幅な変化等により、今後の需要については極めて不透明であり事業の継続性が極めて困難であることを踏まえ、同事業に投資したすべての固定資産について、減損損失675百万円を特別損失として計上いたしました。当該特別損失(減損損失)につきましては、上記業績予想に計上しております。”以上、ヤマシンフィルタの業績修正のお知らせから

ヤマシンフィルタの新しい成長の柱であるヘルスケア事業において業績の見通しがつかなくなったため減損処理をしたという旨の記載となっています。

減損損失とは

会社が貸借対照表上に計上する、固定資産(建物や工具)や無形固定資産(ソフトウェア)はその資産性が著しく棄損する場合は減損損失として特別損を計上しなけばなりません。将来、回収できもしない鉄くずをたくさん持ってても意味がありませんからね。

このとき、どういったケースで減損をするかというと

該当する資産から得られるキャッシュフローが継続して赤字になったとき

経営環境が著しく悪化した時

③資産の回収可能価格が著しく悪化したとき

以上の3点となります。

今回のヤマシンフィルタの場合は ”ヘルスケア事業における、市場環境の大幅な変化等 “と記載があるので②の経営環境が著しく悪化したため減損損失へと至ったと考えるべきでしょう。

新しい成長分野に対して何をしていたか

ヤマシンフィルタは新しい成長分野に位置づけていたヘルスケア分野で何をしていたのでしょう?それはヤマシンフィルタが持っているフィルター技術を利用したマスク作りでした。 「ヤマシンフィルタの業績修正のお知らせから 」は、

“当第3四半期において、ヘルスケア事業を取り巻く市場環境は、国内における新型コロナウイルス
感染者数の大幅な減少やワクチン接種の進展を背景に、マスク市場においては海外製の廉価品への需
要推移が顕著にみられ、当社の高機能マスクの需要は大幅に減少する見込みです。また、当社は当第
3四半期においてマスク量産体制改善の一環として全自動化ラインを導入し量産稼働を開始しまし
たが、急激なマスク市場環境の変化に伴う需要の急減により、全自動ライン導入時に見込んでいた生
産量の確保が困難な状況であり、収益性の大幅な悪化が見込まれることから、通期業績予想の修正を
行います。”

過去にSARSが流行ったときもマスクビジネスは流行ったが,,,

コロナの流行る10年以上前に、マスクビジネスが流行ったことがありました。当時香港で流行していたSARSというウィルス性の肺炎が流行った際にです。

当時はマスクの需要増加を見越し、関連会社がこぞってマスクの製造が盛んになされました。その際に何が起こったかというと需要が供給を大幅に上回ってしまい、マスクの価格下落が起きてしまったのです。余ったマスクは売れるに売れない在庫となり企業の蝕みました。みんなが同時に大量製造してしまうといとも簡単に供給過多による価格の下落が起きてしまうのです。

在庫はそれだけで抱えておくと保管料がかかります。さらに時間が経てば経つほど品質が陳腐化してしまうのです。

当時に比べて製造業者は増えた上に国からのマスク支給もあり供給は増える格好に

sarsに比べて新型コロナウィルスは長期化しているわけですが、当時に比べて安く生産できる業者は海外にたくさん増えました。そのうえ政府からのマスク供給もあったわけですのでマスクの価格は不安定と言わざるを得ないでしょう。新型コロナウィルスで需要が旺盛になったのは良いものの各社ともマスク不足をにらんで増産に入り供給過多となってしまった格好です。

小売物価統計調査による価格推移 より抜粋

マスクは差別化も難しい

ユニ・チャームのマスク 1枚当たり86円

ヤマシンフィルタはマスクの高機能性を前面に押し出し価格も3枚当たり500円という値段ですが、ヤマシンの競合となるマスクの値段は5枚入りで360円くらいというのが相場です。1枚当たり165円(ヤマシン)と1枚当たり70円(ユニチャーム)と考えるとその価格差は2倍ほどもあります。

洗って再利用できるとはいえこの価格差を覆すほどの効用があったかどうかは定かではありません。ですが、毎日使うことを念頭に置くとなるべく新鮮でたくさん入ってて価格も安い方に流れてしまうのが消費者心情ではないでしょうか。

マスクは典型的な価格弾力性の高い商品です。価格弾力性が高いというのは、経済学上、価格を下げると需要が大きく高まるという性質を持った製品を指します。これに当てはまらないのがブランド品といったものです。マスクはどう頑張っても新参者のヤマシンにとってブランドは一朝一夕に築けるものでもないですし価格競争を勝ち抜くほどの組織体制も大手マスクメーカーに比べれば弱いと言わざるを得ないでしょう。

まとめ

マスクは新参者のヤマシンフィルタにとって薄利多売を前提とした製品にならざるを得ません。しかしヤマシンでは、既に競合ひしめく大手メーカーの生産能力の前には如何に技術力が高くとも勝てませんでした。総括するとヘルスケア分野でもマスク分野への進出はもう少し需給が落ち着くのを見計らってからでもよかったのではないかと管理人は考えます。

また、ナレッジとしてSARSが流行った際のマスクビジネスの終生も共有されていたかどうかも疑問です。事実としてそういった歴史を知っているか否かでマスク分野への進出も多少なりとも修正はできたのではないかと考えます。

ヤマシンフィルタ自体は優れた祖業を持っているので今後に期待したい

ヤマシンフィルタ自体は健全な祖業を持っており、今回の件で経営不振に陥ることはないでしょう。また、祖業の重機向けのフィルター事業も今後好調になるという見通しとなっています。また、ダラダラと不採算部門にバサッと見切りをつけたのも個人的には好印象です。今後、成長エンジンとなる事業の柱を再建してさらなる発展をしてほしいと思います。

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