絶望する圧倒的物量差、雲泥の戦略的センス、それでも男は情報を集め同胞の戦いを何とか有利にしようとした

太平洋戦争、日本人の悪弊をこれでもかと見せつけてくれる戦争はこれ以外にない。これは左右両陣営も認識が一致するところだろう。

そんな、この絶望的な戦争で情報を集めまくり、なんとか自軍を有利にしようと奮闘した男がいた。名前は「堀栄三」大本営直属の情報参謀である。

日本人と情報(インテリジェンス)は戦後、まったくと言って機能していなかったと認めまた、情報以外にも日本軍は悪弊を抱えていたと堀中佐は振り返っている。そして、情報を握りつぶそうとする大本営上層部への怒りも彼の著書からは読み取れる。

当時の日本とアメリカの日米戦に対する向き合い方

完全に日本は情報を舐め腐っていたわけではない。大本営でも情報を取り扱う部署は存在した。

しかしその方法は部署によりその手法は異なっており、さらに悪いことに当時はソ連を敵国とする風潮からソ連の情報を扱う部署はあってもアメリカの情報を扱う部署はなかったアメリカとの戦争を見据えていたのに!である。ようやく戦争相手のアメリカとイギリスの情報を取り扱う部署が出来たのは戦争が始まってから半年後という鈍重さである。

対して、アメリカは第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の戦間期に日本を想定した戦いと研究を行っていた。このおかげもあって戦後、物議をかもすことになる日系人の強制収容が行われるわけであるがアメリカは日系人の工作活動と諜報活動の防止が出来たのである。

これは現代のビジネスや組織でも綿々と受け継がれている特性ではないだろうかと管理人は思わざるを得ない。

中佐はどう戦ったのか

堀中佐の戦いは、いわゆるオシント(公開情報分析)と現地調査によるヒューミント(人伝手の情報分析)だ。大本営の中にぬくぬく温まっていたわけではない。

彼の大きな仕事は疑うことから始まった。しかもそれは敵軍を疑うのではなく、自軍、つまり日本軍を疑うことから始まったのだ。事は、台湾沖で起こった日米の海戦結果でアメリカ軍の空母を大量に撃沈したという戦果報告から始まる。中佐は、この報告に懐疑的だった。

これまでのアメリカ軍の空母の情報として周知されている隻数とこれまでの撃沈数の統計を取ると辻褄があわなかったのだ。そして、この疑念は現地のパイロットへの聞き込みによって的中する。彼らの戦果報告はかなり情報として信用できなかったのだ。しかし、大本営はこの戦果報告を信じ切ってしまい後々の戦争指導に大きな禍根を残すことになる。

中佐はアメリカ軍との戦い方の考案でも奮闘した。現地に飛び人づてに情報を集め、さらに戦地の痛ましい情報を集めることで統計を取りようやくアメリカ軍の戦法の全容を掴むことになる。その報告書は急遽現地日本軍に配布され、圧倒的不利な戦いを何とか、アメリカ軍に打撃を与えるまでに改善させることが出来た。

その結果が硫黄島や沖縄、フィリピンでの激闘となる。また、フィリピン戦においてはアメリカの公開情報、当時のラジオや株価などから作戦開始時期を予想するまで昇華させることが出来た。

結果はどうなったのか。もちろん、戦局を覆すまでには至らなかった。さらには公開情報や通信情報から、アメリカの謎の実験、謎のコールサインがとられたB-29の存在も掴んでいた。しかし当時の彼の知識ではそれが原爆を積んだB-29の特別機であったという発送までには至らなかった。

現代の我々はどうこの教訓を活かすのか

今や情報の取り扱いは安全保障だけでなく経済やビジネスでも重要視される。彼の著作からポイントとして何が活かせるのかまとめてみたい。

調査する癖と疑う癖をつけよう 

個人の場合であるが、個人も社員であろうが個人ビジネスであろうが情報を常に集めることと同時に、情報との扱い方を早めに慣れ親しむべきだろう。 情報収集と綿密な調査が大事という一般論である。

だが、これは日ごろの学習と合わせると情報商材などの詐欺に遭う可能性を限りなく抑えてくれる。 また株であれば調査の末、手を出さなくていい会社を見分けることが出来るようになる。いずれにせよ日ごろから調査を行う癖付けを個人でも身に着けていきたい。

・奥の院の一員になるのはやめよう 

奥の院と言えば、神秘的で末恐ろしいというイメージがあるが、これは会社組織であれば誰にでも成り得る。現場に向かわず電話とメールだけで状況を知り指示する管理職や担当者である。 しかもこれが、上級管理職となると手に負えない。

まさしく悪しき大本営となるのである。戦後75年、この戦争の教訓を活かすためにも、読者も奥の院のような後方でどっしり構えるような輩に ならないようにしよう。バックオフィスに努める管理人も自戒を込めたい。

・基礎的な勉学にも励もう

たとえ情報を掴んでも基礎的な勉強や知識がなければ情報を活かすことはできない。彼が情報として掴んだ、アメリカで行われた謎の実験コールサインが通常と違うB-29というキーワードではそれが核兵器を積んだ戦略爆撃機だという認識までには至らなかった。ビジネスでも同じであり情報を掴んでもそれをどう調理するのかはそれまで基礎的な学習を積んできた本人に左右されるのだ。

  • 参考文献 堀栄三「大本営参謀の情報戦記」文春文庫

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